昔の話ですが、今でも大切なことを示唆してくれる貴重な事例です。
私がソニーに入社した年は、家庭用ビデオの大戦争が起こり始めた年でした。
家電各社で開発した、自社規格のビデオテープレコーダーが登場し始めました。しかし、規格が統一されておらず、各社で使うテープもバラバラな状態でした。
「テレビ番組を録画して、後から好きな時間に見ることができる」
「見たい番組が重なったときにも、1つの番組は録画して後から見られるため、両番組ともに楽しむことができる」
今では当たり前のことですが、当時の一般の人々にとっては、夢のようなことでした。
ソニーでは、「録画時間は1時間あれば十分」という見解を持っていました。
その根拠は、当時のテレビ番組は、その7割が1時間以内の番組だから、というものでした。
「本当かどうか、調べてみてくれ」と上司から言われ、新入社員の私は、1週間分のテレビ番組の長さをカウントしてみたりもしました。
確かに7割が1時間以内の番組でした。
そのような経緯もあって、ソニーのビデオテープ「ベータ」の標準規格は1時間録画でした。
ところが、競合の松下電器(現パナソニック)は、「2時間録画を標準にすべき」という見解を持っていました。
後に松下・ビクター連合で開発したといわれる「VHS」は、2時間録画を標準規格としました。
世に言う(今では知らない方も多いかもしれませんが)「ベータ」対「VHS」の大戦争が勃発しました。
各社の規格はこの2つのいずれかになっていき、べータ陣営かVHS陣営か、というまるで関ヶ原の戦いのようでした。
どちらがビデオの標準規格になるか、当時は強い関心が持たれたものです。
ソニーは「1時間録画で十分だし、ベータは2時間録画のVHSよりも画質が良い」ことをウリにしていました。
その結果は・・・
VHSに軍配があがり、事実上、家庭用ビデオテープの標準規格はVHSとなったのです。
そのようになったのには複数の理由が挙げられることでしょう。
消費者ニーズという観点でいえば、ソニー側のニーズの読み間違いという点が挙げられます。
どういうことでしょう?
ソニーは、テレビ番組の7割が1時間以内だから録画時間は1時間で十分と理解していました。
対して、松下電器はなぜ、録画は2時間必要ととらえていたのでしょう?
消費者を対象とした調査を行っていたのです。
「録画したいテレビ番組は?」という問いに、多くの人々が、野球や映画など1時間を超える番組を挙げていました。
お客様のニーズは、どちらがとらえたでしょうか?
言うまでもありません。
お客様のニーズは、お客様がどう感じるか、という視点で理解するものなのです。
以前このメルマガでも述べましたが、
ニーズは不可思議なもの、
深く理解していないと、判断を誤ることがあるのです。
次回は、多くの人が表明するニーズに応えても売れない、という側面もある、ということをお伝えします。