「黒ひげ危機一発」というゲームがありますよね。
ゲーム参加者たちが順番に樽に短剣を刺していって、「黒ひげ」という海賊の首を飛ばしてしまった人が負け、というルールです。
ちなみに日本語としての正しい漢字表記は「危機一髪」ですが、商品名は「危機一発」となっています。
1975年から発売されているロングセラーのゲームです。
かつて日本テレビの「ZIP!」という朝の番組で、このゲームがなぜ売れ続けているのか、その要因について私がインタビューされたことがあります。
番組では「ハラハラ ドキドキ」が人気の秘密というような、ごく短い部分しか私のコメントはオンエアされませんでしたが、今日はもう少し詳しくお話をします。
メルマガ読者の皆さんの仕事にも大いに関係した話だと思います。
実はこの商品、発売当初は、「黒ひげの首を飛ばした人が勝ち」というルールでした。
でもその後、勝ち負けが逆の「首を飛ばした人が負け」というルールになって、より一層売れるようになったそうです。
首を飛ばした方が勝ちということは、短剣を刺す人は、期待感を持って、いわばワクワクドキドキの心理。
首が飛んだら負けというルールでは、短剣を刺す人は、不安感を持って、ハラハラドキドキの心理。
両者は真逆の心理状態ですよね。
どちらのルールの方が、ゲームとして盛り上がるでしょうか?
前者では、首を飛ばした人は勝って喜ぶでしょうが、周りの人たちは、ちょっとがっかりするでしょう。
後者では、首を飛ばしてしまった人は負けてがっかりするでしょうが、周りで見ていた人たちは大いに喜び、しかも、負けた人のリアクションと首が飛んでいく様がコミカルなため、笑い声も起きてゲームの場全体が盛り上がるのではないでしょうか。
次に、ニーズの観点で考えてみましょうか。
「ワクワクしたいですか?」と問いかけると、「ハイ」の人が多く、「ハラハラしたいですか?」と問うと、「イイエ」が多いのではないでしょうか。
しかし、「イイエ」と答えた人たちの中にも、実際には、「ハラハラ ドキドキ」といったスリルを楽しみたいという気持ちや、怖いもの見たさ、といった心理があるのではないでしょうか?
ジェットコースターやお化け屋敷などのように、怪我をすることがなく、命にも別状がないという前提があれば、「危険性」を楽しみたいというニーズは時折強まるものと思われます。
「ワクワク」ニーズは顕在化しやすく、「ハラハラ」ニーズはいきなり問われても多くの人が肯定しない、潜在ニーズと言ってもよいかもしれません。
この例のように、調査で直接的に「ハイ」「イイエ」の答えを求めることは、顕在化している意識領域での問いかけと思った方が良いのです。
潜在している意識の方が未充足ニーズになりやすい、という側面があります。
つまり他社が気づいていないニーズ領域です。
「イイエ」と回答されても、その心理を深く洞察したり、実際の行動と照らし合わせてみたりして、潜在しているニーズに迫ることも必要なのです。いわば「イイエ」の中に「ハイ」が隠れているのではないか、という視点を持ちながら分析していくことが重要なのです。
私が定性調査を非常に重要視し、発言のうわべだけで解釈しないということを実践しているのも、このような理由からです。
話は変わりますが、罰系(ばつけい)という脳のネットワーク機能があります。
恐怖や不快感に関係するのですが、そうした「負」の体験をすると、「精神的ストレス」を軽減しようとしてセロトニンが分泌され、「恐怖」「不快」の後には、心がすっきりしたり、心地よい気分になれるそうです。
セロトニンは心にご褒美を与えてくれる物質で、罰系の反対の意味で報酬系などとも呼ばれます。鬱病などの治療薬にも使われる物質ですね。
「黒ひげ危機一発」で首を飛ばしてしまった人も、周りの人が喜ぶだけでなく、「自分自身も気持ちが晴れ晴れし満足感が得られる」ということになります。
皆さんの商品・サービスも、何かを逆にしてしまった方がより一層売れる、なんていうこともあるかもしれませんよ。