今日は、私がソニーに在籍していた時の話を書きます。
昔の話ですが、初代のウォークマンは、あのグループインタビューを行わなかったら、失敗商品に終わっていたでしょう。そんなお話です。
1980年頃だったと思います。
当時の若者はカセットテープでよく音楽を聴いていました。今ではほとんど使われなくなりましたが、これに音楽を録音して再生して楽しむ、というメディアです。
ある試作品ができました。
見せられた人達は、カセットテープレコーダーだと思いました。
しかし、録音はできないというのです。ヘッドホンで聞くだけ。
そんなものは売れないと誰もが思いました。
ところが、当時の盛田会長など、ごく一部の人は、若者受けすると思っていたのです。
驚くことに、録音できないのにマイクも内蔵されていました。
なぜでしょう??
この商品には「ホットライン」という名前がついていました。
本体の上の方にある黄色のボタンが「ホットラインボタン」というものです。
ヘッドホンは2つ繋げられるようになっていました。
実は、この商品は・・・
〇彼と彼女が二人だけで、同じ音楽を、良い音で共有できる。
〇会話をしたくなった時、ホットラインボタンを押すと、音楽のボリュームが小さくなり、相手の声をマイクが集音して、ヘッドホンを通して聞こえてくる。
・・・という機能を持ったものでした。
「二人だけで、音楽を共有し、二人だけの会話を楽しむことができる、つまり二人だけの世界に浸ることができる」
というベネフィットを持った商品として開発されたのです。
この試作品の受容性を探るため、グループインタビューが行われました。
当時、東京の信濃町にCBSソニー(現ソニーミュージック)のスタジオがあり、その地下に、中学生、高校生が別々のグループとして集められました。
そこでは、このホットラインなる商品について話し合い、次に各自ヘッドホンをつけて自由に楽しんでもらいました。すると、皆、インタビュールームの中を、自由に歩き回るのです。体で楽しそうにリズムを取っている人もいます。
試聴の時間が終わりました。
すると、皆が興奮気味に「これいくらですか!?」と、目を輝かせながら言うのです。
今では当たり前になっていますが、当時の若者は
「自分がどこに行っても、自由に歩き回っても、好きな音楽がついてくる」
という体験をしたことがなかったのです。
この瞬間、これはすごい商品になるのではないかと私は思いました。
と同時に、ホットラインという名前は合っていないのではないか、という気もしました。
この調査の結果を受けて、事業部では急ぎ修正が行われました。
自由に歩き回り、どこに行っても好きな音楽がついてくる、若者たちのこの喜びを元にコンセプトが大幅に変えられ、ネーミングも変更になりました。
ウォークマンの誕生です。
初代のウォークマンは、あのグループインタビューが行われなければ、世界的なヒット商品にはならなかったと思います。
製品は同じでも、コンセプトを変えるとヒットしたり、しなかったりするという貴重な例です。
私のグループインタビュー手法は、その後も何度も改良を重ねながら、沢山のヒット商品作りに寄与してきました。
自信をもっておススメできる調査の方法です。